漆とは
素材としての魅力、
歴史の深さ、
継がれてきた技術、
自然とともに暮らしてきた日本のこころ。
漆にはこの4つが合わさり、
とても趣深い魅力になっています。
うるしの魅力は
語りつくせないよ!
漆は天然塗料のひとつであり、接着剤としても使われています。独特のしっとりとしたツヤが特徴の美しい塗料で、さらに抗菌効果があります。
漆はウルシノキという木の樹液です。夏ごろに幹に傷をつけて、そこから染み出してくる樹液をほんのすこしずつ採取します。1本の木からは約200cc(マグカップ1杯分!)の漆しか採れません。 ウルシノキは日本のみならず、韓国、中国、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジアなどのアジアを中心に生育しています。ウルシノキは強い木ではなく、自然では育ちにくいため、私たち人間が手をかけて育てる必要があります。
一般的な塗料のほとんどが、水分が蒸発したり油分が揮発したりすることで乾きます。しかし漆は、じめじめした湿気の多いところで乾きます。「乾く」というよりも「硬化する」のほうが正確です。漆の主成分「ウルシオール」と「酵素ラッカーゼ」が空気中の水分と結びついて固まるという性質があるためです。
採れたてのウルシノキの樹液は白く、そこからすぐに硬化反応がはじまり、段々とカフェオレのような乳白色になります。もっと空気に触れて固まってくると透明感のある茶色になります。鉄粉などを混ぜて化学変化させることで、よくみる黒漆になります。それ以外の色は顔料などを混ぜてつくります。もともとの漆の色が茶色をしているので、落ち着いた風合いの色になります。
漆は水やアルコール、酸やアルカリにも強く耐久性のある優れた塗料です。漆器を長時間直射日光にさらしたり、火をつけたり、タワシでゴシゴシこすらないよう気をつければ、永く愛用することができます。
漆は古代に今の中国から朝鮮を通じて、日本に伝わったとされています。日本では縄文時代(約12600 年前)の世界最古のウルシノキの化石が福井県から、また約9000 年前の世界最古の漆器(副葬品)が北海道から出土しています。「ヤマトタケルが漆を日本で初めて発見した」という伝説があるくらい、漆はとても古い時代から日本人に愛されていたんですね。
1万年の文化のある漆ですから、その中でさまざまな技術や技法が生まれました。その中のごく一部を紹介します。
漆を薄く塗り(地塗り)、その上に金属粉を蒔いて模様を描く加飾の技法。
ケヤキやトチなどの木目の美しい木に、漆を薄く塗って布で拭き取る工程を何度も繰り返すことでできる、素地の木を生かした漆塗装。
壊れた陶磁器などを漆で接着して形を整えて、修復箇所を漆の技術で装飾する技法。特に金を用いた仕上げを「金継ぎ」と呼びます。
漆掻き職人、木地職人、塗り職人、蒔絵職人、道具職人…漆にまつわる技術には、何年もの修行を重ね、それぞれの道を究めたプロがいます!
漆は天然の塗料であり、私たちはそんな自然の力を借りて生活してきました。どんなに堅牢な漆でも、使っているうちに壊れることももちろんあります。しかしながら、何度でも塗り直せて使い続けられるのも、漆の魅力です。
漆を通して、物や自然を大切にすることを考えるきっかけとなれば嬉しいです。